カウボーイとスイス人とキングストン
AEWの選手はオタクが多い。
4人の副社長のうちケニー・オメガはゲームや日本のアニメが大好きだし、コーディ・ローデスはスタートレックやスター・ウォーズ、任天堂のゲームが好きでコスプレまでやっている。先に紹介したサミー・ゲバラは自身と同じくドラゴンボールオタクのキップ・セイビアンやマルコ・スタントたちとよくつるんでいるし、古いアメプロや日本のプロレスに詳しいプオタレスラーもMJFやブッチャーがいる。そもそも社長のトニー・カーン自身がIQ160の歩くプロレス辞典みたいな存在である。
そんなオタクレスラーの楽園に、そいつは突然やってきた。
エディ・キングストン。
キングストンはインディーで18年も活動していた実力者ではあるのだが、大手団体(WWEとか新日とか)から全く声がかからず、ただでさえ限界生活を送っていたのに新型コロナのせいで2020年に予定していた欧州遠征が全部パアになってしまったおかげで自宅のローンが払えなくなってしまい、マジ限界突破でリングウェアを売って地元に帰ろうかと思っていたら運良くインディーの大会に出れることになり、そこでWWEのオールディスとAEWのコーディと新日のザックjr.にマイクでケンカを売ったところ、身も心もイケメンのコーディがケンカを買ってくれたおかげでAEWに所属できたというシンデレラおじさんである。
売ったケンカ
買ってもらったので来ました。ここまでたったの2週間。
しかしこの記事の論点はそこではないのだ。
キングストンはプライベートでAEW選手とつるんでるイメージがあまりない。AEW公式番外編みたいな扱いのYouTubeチャンネル『BEING THE ELITE』のスキットにもサミー・ゲバラのVLOGにもほぼ出てこない。BTEにガッツリ出たのはブロディ・リーの追悼スピーチぐらいか。真面目な人ではあるのだろうが、全体的におっかないイメージで、どうにも陽気なお兄さんという感じではない。
私のささやかに構築されたAEWタイムライン(あまりフォローバックしてなくてすみません)では熱い男として人気はあるものの、実は個人的にはあまり興味のある選手ではなかった。
でもこのままではいかんなーキングストンを勉強しよう!と思い、とりあえずいつもの作成に出た。インスタ漁りである。
インスタに潜ってすぐわかるのは、日本のプロレス(80~90年代)が好きなんだなあということ。新日より全日派で川田とか小橋が好きらしい。なおFULL GEARのモクスリー戦で着てた緑色のウェアは三沢リスペクトだそうである。
Thumbtack city! #AEWFullGear pic.twitter.com/T5MYAxYRmh
— All Elite Wrestling (@AEW) 2020年11月8日
いつもは赤とか黄色の派手なウェアなのに、なんでこの時だけサエない色着てるんだとは思ってた
少し潜ると、アメリカのアニメらしきもののサムネが増えてくる。子供の頃にこういうの見てたんだろうな~以上のことは思わなかった。ほとんど知らんアニメだし
あとフレンチブルドッグとラッパーの2pacに関する投稿が多い。
だが、更に深く潜るとだんだん怪しくなってくる。
あれ?明らかに日本の、それも新しめのアニメだな?どうやら『メガロボクス』のキャラらしい。日本だと「原案:あしたのジョー」という触れ込みのせいかあまり人気が振るわなかったが、海外では結構な人気があるという噂は知っていた。(ちなみになんで新作アニメに昔の作品の名前が原作としてついてるのかというと「そういうことにしておくとスポンサーから金を巻き上げやすい」という事情があるそうな)
はー、こういうのも見るんだな?
どんどん潜る
あれ?リューク…???
待って
待てっつってんだろ!!カウボーイビバップのビシャスじゃねえか!!「血の涙を流すがいい」とか書いてんじゃねえよ!!(満面の笑み)
これでは「子供の頃に見てたアニメが今でも好き」とか「ネトフリで見たらたまたま面白かった」という言い訳は通用しない。カウボーイビバップのアメリカでの初回放送は2001年、もしリアタイ視聴だとしても当時のキングストンはもうハタチであり高校も卒業してプロレス修行を始めていたであろう年齢だ。
しかもビバップは「大人が見ても恥ずかしくない」云々とよく言われるが、実際にこういうのを見ているのはオタクを卒業しそこねたままオトナになってしまったタイプのオタクなのだ。実際AEWの若手たちはドラゴンボールかポケモンの話しかしていない。そっちのほうが本当は健全なのである。
アニメが大好きな少年時代を過ごし、そろそろアニメを卒業しなきゃなあという時にビバップに出会っていたとしたらなんとまあ業の深いオタクライフであろうか。
キングストン曰く、ビシャスはジョーカーと並ぶ二大ヒールだそうです
ベルセルク。「何がいいんだ」とお気に召さなかった様子。胸糞展開だからしょうがないね!で、どのバージョン?(アニメのベルセルクは監督・スタジオの違う3種類があります)
ビバップのヒロインはジュリア派であるらしい。それ日本でもだいぶレアな属性だからな??(フェイ派が多い)
案の定コメント欄でジュリアがdisられてて笑ってしまった
.@MadKing1981 is NEVER at a loss for words. See what he’s got to say to @DaBlackPope tonight on @nwa #SuperPowerrr. #NWAPowerrr @CWFHMarquez pic.twitter.com/uAyzrbT7Cs
— Joe Galli (@JoeGalliNews) 2020年5月12日
https://t.co/xrPrYsfdqo pic.twitter.com/pJJmpZ47Fe
— Eddie Kingston #BlackLivesMatter (@MadKing1981) 2020年7月18日
https://t.co/BoSv7rczZl pic.twitter.com/dgxIdVMie4
— Eddie Kingston #BlackLivesMatter (@MadKing1981) 2020年7月29日
AEWに入団して間もなく、ビッグ・スウォールのブルマツイートにスパイクのgifを返すキングストン。だがネタが通じなかったのか、スウォールから返事はこなかった。リプ欄が「俺はわかるぜ!」なオタクたちに溢れていてほっこり
…どうにもキングストンによるAEW団体内でのビバップ布教活動は地味すぎて振るわないようだが、インディーでの18年間も孤独なオタ活をしていたのだろうか…?
と、つい心配してしまうが、どうもそうではなかったらしい。
キングストンのインディー時代のオタクマインドを支えたであろう人物がいるのだ。
クラウディオ・カスティニョーリ。現WWEのセザーロである。
私は秋にAEW沼に落ちるまで15年間アメプロから離れていたので彼を知らなかったのだが、結構有名な選手であるらしく、最近は仲邑と組んでいるそうである。
私がカスティニョーリ…セザーロを知ったのは、キングストンを調べていた時にたまたま見かけたインディー団体『CHIKARA』での試合だった。
試合開始1秒で跳び蹴り
5秒でパワーボム
いきなりフィニッシュムーブでおっぱじめる馬鹿がいるか!
キングストンも5秒でダウンする訳がなく、なんとこの展開が20分も続く。すぐに大技をかけようとするセザーロに、キングストンは終始困惑している様子であった。
しかしこの2人は仲がいいらしく、インディー時代はよくつるんでいたようなのだ。
出所は不明だが、どうやらキングストンがセザーロに中古車を売ったときの写真らしい。キングストンがなんだかすごい格好をしているが、これはセザーロのインディー当時の衣装のパロディだそう。いい笑顔。
ではセザーロもビバップが好きなのか?というと、そうでもない。彼はドラゴンボールのオタクである。ここでもまたドラゴンボールかよ!!
Friendship goals...#SummerSlam @WWECesaro @WWESheamus pic.twitter.com/raUzalVtV7
— WWE Universe (@WWEUniverse) 2017年8月21日
当時の相方、シェイマスとフュージョンするセザーロ
だがセザーロは1980年生まれであり、90年代生まれのドラゴンボール大好きなAEW若手オタクくんたちとはずいぶん歳が離れている。アメリカでのドラゴンボールZの本格的な放送は1998年からであり、世代が合わない。なぜ彼はドラゴンボールのオタクなのか。
それはセザーロがスイス人だからである。
スイスは国内のテレビ放送が脆弱なため、代わりに隣国のフランスやドイツ、イタリアのテレビ電波がガンガン入ってくる。セザーロはルツェルン出身で母語はドイツ語らしいのだが(なおセザーロはイタリア系の血筋だそうだ)スイスは多言語国家ゆえにドイツ・フランス・イタリア・ロマンシュ・英語の5ヶ国語を操れるそうである。
そんなセザーロはスイスに生まれながらフランスから流れてくるテレビアニメを見て育ち、そしてフランスは欧州でも有数の日本アニメ輸入国であった。ドラゴンボールはアメリカよりずっと早くに放送され、聖闘士星矢や北斗の拳、シティーハンターやドラえもんもフランスを経由してスイスのテレビに映っていたのである。オタク養成に最適なスイス。実際スイスでは欧州最大クラスのオタクイベントが開催されているらしい。
だがセザーロがアメリカに来たとき、おそらくではあるがーー彼のオタ話が通じる相手はいなかった。当時のアメリカでドラゴンボールは「子供が見ているアニメ」扱いだし、他の日本産アニメもほとんどがアメリカで放送されていない。特に80~90年代の日本産テレビアニメはアメリカでは「暴力的」とされ、90年代末まではその多くが規制され放送されなかったのだ。(マニア向けにOVAなどは販売されていたが)
同世代の非オタと話の通じないアメリカのオタクとスイスのオタク、別々のアニメを信奉しているといえど、リングで出会った二人がオタ友となったのは必然といえるのかもしれない。
今でも彼らは所属団体は違えど、お互いのインスタをフォローしていいねを飛ばしあっている。イイハナシダナー
あと、私も面白がってクロスオーバー絵を描いたんですが
Wエドワード pic.twitter.com/3hYfPqNkkb
— W-asi (@pilotworks) 2021年2月2日
相互の鍵垢さんから「本人に見せてあげて」と言われて、反応来るわけないやんとインスタで@をつけて投稿したところ
爆速でリポストされてて笑いました(Tank!つきでストーリーにあげてくれてありがとう…ハイライトにアーカイブされてるので今でも見れます)
これからのキングストンのオタ活に幸あれ!
あと、話がわかるオタクおじさんはキングストンの話を聞いてあげなさい